last.virgin
『遙、男に襲われそうになったら、そいつの喉元か股間ば思い切り攻撃せろよ?』
お兄ちゃんの言葉が頭を過る。
私はもう一度そいつの喉元に蹴りを入れると、苦しむそいつをバイクから引き剥がし、股間に目掛けて踵を降り下ろそうとしたその時。
バイクの主はヘルメットを外して。
「ゴホッ…オエッ…は…はる…が…お…俺だ…ゴホッ!」
「……和久井…君?…」
「そう…だ…オエッ…ゴホッゴホッ!…俺…だ…」
「…何で、和久井が…私達を襲うの?」
「違っ…お前…ゴホッ…が…痴漢に…ゴホッ…襲われ…とると…思…た…けん…ゴホッ…」
「ほぇ?…痴漢?…私が?」
「違う…のか?…」
「違うよっ!あっ!…坂口さん!」
「あっ!遙っ!」
和久井がそう叫んだけど私は、肩を押さえこちらに向かってよろよろと近付いて来る坂口さんに駆け寄った。
「坂口さんっ!肩っ!どうかしましたか?!」
「馬鹿野郎っ!!」
「ひょえっ?!」
いきなり私を怒鳴り付ける坂口さんに驚いてしまった。
「走って来るバイクに向かって行く奴がいるかっ!」
「ほえっ?!」
「無事かっ?怪我は無いかっ?」
「私は大丈夫ですっ!それより坂口さんが…ふぐっ!」
片腕で坂口さんは私をギュッと抱き締めてしまった。
「…ホントにお前は……怪我が無くてよかった……」
「…むわっ…私の事より坂口さんがっ!」
坂口さんの胸に顔面を押さえ付けられていた私はグイッと顔を上げた。
そこには切なげな表情で、笑って私を見下ろす坂口さん。
その顔を見て、昨日の坂口さんを思い出してしまって、心臓がドキンとひとつ脈打つ。
優しく何度も瞼にキスしてくれた、あの時と同じ表情してる……。