last.virgin
「………痴漢?…」
「はい…ホントにごめんなさい…坂口さん…」
私は坂口さんに申し訳なくて、深々と頭を下げた。
「……だから、警察には言わないで下さい…」
「……俺は別に警察に行ってもいいですけどね…」
あぐらをかいたままで、和久井君はそっぽを向いてそう言って、私はまたしても頭に血が上ってしまった。
「和久井君っ!」
「ふんっ!」
「むきぃ−っ!何やその態度は?!」
「あ。子猿がまた怒った、あははは」
「和久井君っ!」
再び蹴りを入れてやろうかと和久井君に近付くと、和久井君は立ち上がり、バイクを起こして立て、それをしゃがんで見つめると。
「あ−あ…俺のゼファーが…ミラー折れとる…タンクにもキズが…」
「自業自得や!保険で賄えるやろ?それより早く坂口さんに謝って!」
「ちょっ…遙…もういいから…」
いきり立つ私を坂口さんは窘めると。
「彼は悪く無いよ…遙の事が心配で、必死だったんだよ、それに警察なんかに言ったりしないから、俺の方こそ早とちりして…すまなかった…」
「……坂口さん…」
なんて大人な対応なんやろ?
それに比べて和久井君は……。
「坂口さん、病気行きましょ!」
私は坂口さんの痛んでいない方の腕を掴んで、坂口さんの車へと向かう。
「えっ?でも、彼も怪我してるんじゃ…」
「してませんよ!坂口さんと誓って頑丈ですから!」
プンプンと私は頭から怒りマークを飛ばしつつ、スタスタと足早に歩く。
「おいっ!遙っ!ラーメンは?!」
「知らんっ!」
和久井君の言葉にそう返すと、坂口さんを助手席に押し込み、私は運転席へ。
クラッチを踏みギアをローに入れ、半クラッチでアクセルを踏んで、派手にタイヤを鳴らしてその場から走り去った。