思い出はあなたの中に
時計を見るとちょうど9時になっていた。
少し、というかかなり残念だったが、無理強いするわけにはいかない。
理解のある恋人を演じながらも、オレは落胆の色を隠せなかった。
「ホントごめん…。怒ってる?」
「怒るわけないだろ。お父さん心配してんだろ?駅まで送っていくよ。」
「ううん。近いから大丈夫だよ。」
送るというオレの言葉を、遠慮からかヒトミは頑なに拒否した。
駅まで徒歩10分まだあまり遅い時間でもないし、人通りも多い場所だ。
オレも強くは言わなかった。
身支度を済ませたヒトミを玄関まで見送った。