たった一人の親友へ〜another story〜
小さい頃


気がついたら俺の中には


父親という存在はなかった


だから他のやつらを心底羨ましくも思ったし


父親を恨んだ時期もあった


クラスのやつが父親とキャッチボールしているのを見ると


人一倍壁に向かってボールを投げつづけた


友達の家族写真を見るたびに


父さんという存在を自分の中だけで作り上げた




俺は今までそうやって生きてきたから


そうやってでしか生きられなかったから




どこかで父さんは俺のことを想ってくれている


いつか俺と母さんのことを迎えに来てくれる


それが唯一の


俺にとっての唯一の希望だった






あれから10年たって


俺が一番怖いことは


その希望を失うこと


だから俺は初めの一歩を歩み出せずにいたんだ


さなの言葉を聞くまでは
< 69 / 220 >

この作品をシェア

pagetop