たった一人の親友へ〜another story〜
「翔。来てくれたんだな」


そう言って父さんは泣いた


今年36歳になる父は


それより幾分か老けて見えて


顔に疲れがにじんでいるようだった


「うん。元気だった?」


「あぁ。」


お互いそれ以上の言葉は続かなくて


ベンチに座りながら


父は自分の今までの人生を


ぽつりぽつりと話しはじめた




父が母親と付き合い始めたのは父が17歳で母が16歳の時


父は母のことを美人で最高の彼女だったよ、と笑って言った


付き合って三年の月日が流れたある日


お互い別々の大学で、それぞれの道を歩んでいたけれど


それでも上手くやっていた


そんなある日だった


久々に会えたデートの日


母親が体調不良を訴え、病院へと向かった




医師から告げられた言葉は


“妊娠三ヶ月”という苛酷な現実


その日から“俺”という存在が


母と父の歯車を


少しずつ狂わせていったんだ
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