たった一人の親友へ〜another story〜
“単純すぎるよな”


そう言って父は苦笑いした


それから母と父は大学をやめ


お互いの両親に大反対されながら


同棲をし始めた


母から少し聞いたことがあったけど


半分駆け落ちのようなものだったらしい




父は工事現場で働きながら夜はバイトをして、何とか生計をたてていた




そんな生活から一年が経ち


俺が生まれ


幸せな三人での生活が始まったはずだった




「本当に後悔してるんだ」


ふいに父がそう言った


「どうしてあの時お前たちを守ることができなかったんだろうって。
ごめんな。」






どんなに謝られたって


どんなに後悔したって


過去は過去だ


今更変えられるものじゃないんだよ


父さん


俺はそのことを痛いほど知っているから


だから“ごめんな。”なんて言うなよ




言葉には出せないもどかしさが


さらに自分の胸をえぐった気がして


ぎゅっと強く目をつぶったんだ
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