たった一人の親友へ〜another story〜
倒れた彼女を見て


俺はどうすることもできなかった


彼女を支えてやることも


抱きしめてやることも




何時間も彼女の泣き声と波の音だけを聞き続けた




「落ち着いた?」


恐る恐る彼女にかけた言葉


こくん、とうなづき俺を見たさなは


少し寂しそうで


俺の心臓をぎゅっと締め付けた






正直さ


怖かったんだ


こんなにも身体が


心が


さなを欲していることを


迷路みたいな恋に何の未来もないのに


それでも出口を見つけることができない自分が怖かったんだ




いつもならすぐに抱きしめて優しい言葉をかける俺は


本当の俺なんかじゃなくて


ただ欲望のままに動いていただけの俺だ


そんな虚像を通して俺を見ているさなは


こんなこと知ったら絶対に離れていくだろうな




そう思ったら突然自分にとてつもない嫌気がさして




それと同時に




とてつもなくさなを




愛しいと思った
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