たった一人の親友へ〜another story〜
俺の言葉を聞いたさなは


ひどく傷ついた顔をした


大きな瞳からは


大きな涙が流れて


一つ一つ現実を突きつけるかのように、俺に対してようやく口を開いた


「誰が都合がいいって?

翔はいっつも自分ばっかりだね。

あたしのこと分かってるみたいな振りして、全然分かってない。

あの日のあたしの身体の傷のこと覚えてる?

あれね、中学の先輩たちにやられたの。

誰にも言えなかった。怖かったけど、思い出したくもなかった。

あの時翔言ってくれたよね。

俺が傍にいるからって。守ってやるからって。

嬉しかった。翔になら言えるって思った。

でも、言えなかった。

あの時の翔、ゆいちゃんでいっぱいだったでしょ?

あたしの傷のことなんて忘れてたよね?

責めてるんじゃないの。

でもあの時あたしを支えてくれたのは翔じゃなくて隆也だった。

隆也だったんだよ。

翔のちっぽけなあんな言葉より、全然嬉しかった。

隆也の温もりとか隆也の全部が嬉しかった。

だから隆也とやり直そうと思ったし、やり直したいと思ったの。

翔にあたしのこと言える権利なんてある?

都合がいいなんて言える権利ある?

あたしはよっぽど翔の方が都合いいと思うよ。

あんな言葉だけあたしに残して。

結局あたしのことなんて何にも考えてなくて。

彼女なら彼女だけ大切にしなよ!

中途半端なことしないでよ!

そういうことでいちいち傷つけないでよ。

もう翔のことで悩むのはやだ。

顔も見たくない。

大嫌い!!!!」




とめどなく流れる涙を俺はただただ見てた


言われている意味を理解するほど俺も大人じゃなくて


言い訳するほど子供でもなかった


ただ一つ言える事はもう二度と過去には戻れないということ


もうお互い笑いあうことはないということ


後悔しても意味のない新たな道に迷い込んだということ
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