永劫の罪人 光の咎人
 少女が外套に包まれて、ようやくロンドは彼女を正面に見すえる。自分より一、二歳年上に見えた。

「あの、貴女は一体?」

 ロンドが尋ねると、少女は雄々しい口調で答えた。

「……私か? 私はマテリア」

 少女の視線はまだ空をさまよっていたが、意識は大分戻っていた。口調に似合う、芯の通った声だ。

 街で見かける同じ年頃の少女と比べ、気性が荒そうな印象を受ける。
 しかし、『永劫の罪人』という肩書きにはそぐわない。

 首をかしげるロンドの袖を、ビクターが引っ張った。

「おい少年、これのどこが『永劫の罪人』なんだ?」

「……僕も驚いています。けれど……」

 仮に彼女が『永劫の罪人』でなくとも、秘薬の副作用で悪人に変わるかもしれない。

 油断はできない。
 ロンドは息を呑み、マテリアの出方をうかがった。

 マテリアの焦点が合い始める。

 急にマテリアがハッと息を引き、虚ろだった瞳に輝きを宿す。
 彼女の身には秘薬の光が残っており、ビクターへ顔を向けると、輝きの粒が辺りに散った。

「ちょっと剣を貸りる!」

 マテリアはビクターの手から長剣を奪い取ると、一直線にロンドたちが通ってきた道を走っていく。

 何の前触れもなく静から動。
 一瞬の変化に二人はついていけず、あ然となって顔を見合わせる。

 ひと呼吸置いて、二人は我に返ってマテリアの後を追った。

「おい、ちょっと待て!」

 ビクターが叫んでも、マテリアの動きは止まらない。
 石や小枝混じりの地面を、素足で駆ける彼女の姿は獣そのものだった。

 地に足が着いていないのでは、と疑わずにいられなかった。
 ロンドの目には、彼女が空を渡っているかのように映る。

 マテリアが跳躍する。

 そこには目くらましから回復してきた賊と剣を交え、追いついた警護隊とともに奮戦しているガストの姿があった。

 跳躍の勢いに乗り、マテリアは剣を振り下ろす。

 剣の先にいたのはガストではなく、賊の男。
 不意打ちながらも、間一髪剣を受け止めた男だったが、マテリアの力強い押しに、剣は彼の手を離れる。

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