永劫の罪人 光の咎人
「ダット……あ、なんだ。王都か」

 聞きなじんだ街の名前に、マテリアは少しホッとした。ただ、元城下街という言い方が気になる。
 詳しい話を聞きたくて、マテリアは体を起こす。
 いつ着たのか覚えていない、大きくダブついた白シャツが、マテリアの目に入った。

「あれ? こんなシャツ、いつの間に着たんだろ?」

 ビクターが親指を自分に向ける。

「オレが着せたんだ。ちなみにソレ、オレのシャツな。汗臭くても勘弁してくれよ」

 鼻をくんっと動かし、マテリアはシャツを嗅ぐ。
 少しほこりっぽい臭いはしたが、ビクターが言うほど臭くはなかった。

「気にならないよ。世話になったみたいだな、ありがと」

 汗臭いっていうのは、真夏に農作業で汗をたれ流し、その汗をぬぐって絞ってを繰り返したタオルやシャツのことだ。
 こんな少しだけまったりした男の香りがついたシャツなど、まだまだ清潔感があって着られると、本気でマテリアは思う。

 素直に礼を言ったのに、なぜかビクターはあからさまに肩を落とした。

「もっと色気のあること言ってくれよ。お前さんには、恥らいというものはないのか?」

 思わずマテリアは吹き出し、背中をかいた。

「あはは、勘弁してほしいな。色気だなんて私には縁がないから。うーっ、背中がムズムズする」

「それでも女かぁ? ……まあいいけどな」

 ビクターはこれ以上話題を引っ張らず、おもむろにマテリアへ、丸めた衣類を投げる。

「ホラ、寝ている間に服を調達しておいたから、着てみてくれ」
< 28 / 167 >

この作品をシェア

pagetop