永劫の罪人 光の咎人
「頭が痛い……アイツって、誰だ? 顔が出てこないのに、胸の中がもやもやする」

「無理して考えるなよ。こういうのは苦しんで思い出さなくても、何かボーッとしてたらポンッと思い出すって」

 いつも通りの口調で話しかけながら、ビクターはマテリアの背をなでる。
 その顔から普段の軽さは見当たらず、なぜか彼も苦しげに目を細めていた。

 後方からの一行もこちらに追いつく。僧侶たちや警護についた者たちも、疲れで表情が強張っている。

 早く村に行って用事を済ませたいが、みんなに無理をさせるわけにもいかない。
 ロンドは辺りを見渡し、木陰を指さした。

「皆様、木陰で休憩を取りましょう」

 誰もロンドの意見に反論する者はおらず、各々に助かったと言わんばかりのため息が出てきた。

 ビクターとロンドでマテリアを立ち上がらせ、道ばたの木陰へと連れていく。
 地面に腰を下ろした彼女は、うつむきながら何度も深呼吸をくり返す。

「マテリア、水だ。飲めるか?」

 馬を木にくくりつけた後、ガストが革の水筒をマテリアに差し出す。
 息を整えてから、彼女はしっかと水筒をつかみ、見ているほうがむせそうな勢いで水を飲んだ。

「ありがとうガスト、助かった」

 水筒をガストに返すと、マテリアは両手を後ろについて木々を仰いだ。

「急に痛くなったから、びっくりした。今までこんなことなかったのに」

「元気とたくましさが取り柄ってか? 少し弱ってたほうが、かわいげが出てちょうどいいかもな」

 笑いながらビクターが彼女の頭をなでる。
 不本意そうにマテリアは唇を尖らせたが、その顔にはずいぶんと元気が戻っていた。
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