永劫の罪人 光の咎人
「僕が未熟なせいで……申し訳ありません」

 それ以上ロンドは何も言えず、うつむいた。

 昔は王の寵愛を受け、国の教えとしてライラム教は民衆に浸透していた。

 しかし百年前、絶対王政を覆す革命が起きた。
 革命の成功により王政は終わり、それまで国教として扱われていたライラム教は後ろ盾を失った。

 民主政になったこの国で、今もライラム教は根づいている。
 だが、以前よりも人々は教会に足を運ばなくなり、熱心に信仰する者も少なくなった。都合が悪くなってから、法術を頼って駆けこんでくる者ばかりだ。

 一度冷めてしまった民衆の心を、元に戻すことなどできない。
 現状を維持することが、どれだけ難しく、教会を存続させるために必要なことか。そんなヴィバレイの深慮がよくわかった。

(すべては僕の力が至らないから……)

 ロンドは心を痛めながら、話題を切り替える。

「歴代の教皇様の中でも、どうしてハミル様なのですか?」

「秘薬は人を生き返らせるが、肉体まで若返らせぬ。歴代の教皇はほとんどが老衰で亡くなられている。そんな中、若くして命を落とし、名高かった教皇。それが教皇ハミルなのだ」

 ロンドは口に手を当て、ハミルについて書かれた文献を思い出す。確か二十歳の若さで、流行り病で亡くなったと書かれていた気がする。

 一体どれだけ素晴らしい人だったのだろうか? 会えるならば、ぜひ色々な話を聞いて学びたい。しかし秘薬の副作用をハミルに背負わせたくない。
 そう思うと心苦しくなり、ロンドの息が詰まった。

 ヴィバレイが踵を返し、祭壇へゆっくりと向かい壷を置いた。零れる金色の光に窓から射す光も混じり、輝きが増した。

「ロンドよ。ガラスの小瓶を三つ持ってきて、シムに渡してくれぬか? 秘薬を分けなければな」

「……はい、ただ今お持ちします」

 ハミルの復活に、どうしても罪悪感を覚えてしまう。ロンドは晴れぬ心のまま頭を下げ、奥の間を出た。
< 9 / 167 >

この作品をシェア

pagetop