【短編】アタシの年下クン




「――――もう、いいです」




低くつぶやかれた声に、ハッとして顔を上げた。


透大…?


透大はアタシにじっと視線を置いたまま言葉を紡ぐ。




「紫苑さんがそう言うんなら、もういいです。何も聞きません」


「とう…」


「すみませんでした」




違うっ!


そうじゃないの…!


そう言いたいのに、うまく言葉は出てきてくれなくて。




「…今日はもう帰ります」




そう言って、くるりと透大が背を向けた。


その途端。


アタシの中で、ガシャンと大きな音がした。




『紫苑さん、好き嫌いはダメですよ』


『今日はもう寝ましょう。疲れているみたいだから』


『その服、紫苑さんにとてもよく似合ってます』


『行きましょう、紫苑さん』


『…好きです、紫苑さん』


『紫苑さん』








――――紫苑さん。







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