悲しき 極道

爽やかな春も過ぎて、
暑い時期が来てた。
相変わらず、
家出中。



どこからとなく、
変な噂を
奥田が持ってきよった。

「なぁなぁ!この団地に
 ク・チ・サ・ケ女が
 現れるらしぃで!」

「…おいおい…
 ワシ、1人やねんから…
 怖いやん…」


お陰さんで、住まいから
ほとんど出やんかった。



夏休みになると、
田中って言う
友達も増えた。

田中の家は、金持ちや。

奥田んちとは違い、
ええもん喰うとるわ。
持っとるオモチャも、
品数豊富やもんな。


実は、
田中ンちの玄関先に
ほしい物がある。

もちろん、頂くつもりや。



ある日、
奥田に借りた帽子をかぶって、
田中ンちへ。


喰うもん喰うて、
盗るもん盗って、
この日は早く帰る様にした。

頭に違和感があるからや…



ワシは帰るなり、
自慢げにそれを
奥田に見せたった!


それは、
クワガタや。

それも、黒く光った
ノコギリクワガタや!


奥田は、
どないしたん?
みたいな事、聞きよったが
答えたらんかった。



ワシはその日、
嬉しぃて触りながら寝てもたわ。



…朝、目が覚めたら
クワガタがおらん…


…逃げられた!


ワシはアホやと、
後悔しまくった…

欲しくてしゃーない、
クワガタを手に入れたのに
一晩でサイナラ〜やて…

ホンマ、あほやで…


結局これが、
この夏のツラ〜い
思い出ちゃうかな〜…
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