x.stage
くるりと振り返った千夜の目に入ったのは、闇に呑まれかけている陸の姿。
反射的に駆け出そうとするも、自分の足もまた闇に捕らわれていることに気がつく。
「……っ、しまっ……陸!!」
苦しそうに喘ぐ陸は、すでに下半身を闇に呑まれている。
ついに闇が喉元まできた時、陸は抵抗を止めた。
「…千夜……悪い、また…な……」
滅多に笑わない陸の笑顔を見て、ようやく事を理解した。
夢じゃない。
必死に叫ぶ千夜の声が聞こえたかはわからない。
陸は目を瞑り、静かに闇に呑まれていく。
完全に陸が見えなくなると同時に、悲鳴が辺りに響き渡った。
「いやぁぁぁぁあああ!!!!」
消えた。
陸が消えた。
(このまま呑まれれば、陸と一緒の所へ行けるかもしれない。)
そう考えながら俯く千夜の身体もまた、闇に沈んでいった。