x.stage
緋那の顔を見つめたまま固まった千夜。
その視線から逃れるように、緋那はゆっくりと千夜を地面におろした。
状況を説明しようと口を開く前に、千夜の叫び声が森に響いた。
「あんた虎だったの!?」
黒の縞模様が入った顔、鋭い爪、髪の間からは黄色い耳が生え、今話されたばかりの掌に柔らかい肉球のようなものがあった。
千夜の頭に浮かんだのは、以前友達が年賀状に描いた可愛らしい虎の絵。
違うのは、あくまで人、緋那の姿をしているということ。
当人は何も言わずに後ろを振り向き歩き始める。
「ちょっ、待ってよ!」
「…んだよ、俺が気味悪いならとっととここから……」
「ありがとう!助けてくれて!」
振り返ると、彼女が両手を口元に当て叫んでいた。
思わず立ち止まると、小走りで緋那に近づいてくる。
「………。」
「あたしのこと嫌いなのに、飛び下りてくれて…怪我無い?って言っても、虎の治療法知らないんだよね。」
いつの間にか人間に戻った掌を、千夜は両手で包み込む。