x.stage
「よく守ったな。」
笑いながら声をかけると、緋那は深くため息を吐いた。
「あいつ、とろすぎ。」
「可愛いじゃん、お前を見て驚かなかったし。」
「驚いてた。怯えてたさ。」
「そうか?窓から見てた限りじゃそんな…」
「震えてた。」
兄の言葉を遮り、緋那は自分の掌を見つめてぽつりと呟いた。
「落ちて、獣に助けられて…震えるよな。」
自嘲めいた笑いを素早く消し、緋那は真郷を真っ直ぐに見つめ直す。
「あいつのこと、騎士団に報告するのか?」
「あぁ。だが、彼女は客人だ。旅人だろうが何だろうが関係ない。客人として架凛が迎え入れた。騎士団は、迷子の少女がいたというだけじゃ動かない。」
「もし本部が動いたら…」
「保護という名の幽閉、だろうな。」
「…そっか。」
緋那は、昔読んだ本の一部を思い出しながら呟く。
「旅人が帰って来た時、災いはもたらされる。旅人の手によって、避けることができぬ戦が。」
真郷の代わりに、風に揺れる木々が応える。
静かな森を眺め、やがて2人はどちらからともなく歩き出した。