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第一章
Un
桜が散り始めたのはつい先日のこと。
学校から帰る道のりに、桃色の絨毯が敷かれている。
いつもの道を歩く千夜の前に、彼女がよく知る後ろ姿がある。
「陸!」
勢いよく背中を押すと、頭一個分背が高い彼が前のめりに倒れた。
「うわっ!千夜!……てめぇ…いきなり後ろから押すな!」
「何か言ってからならいいの?」
「そういう問題じゃねぇ!!」
千夜の二つに結び分けた黒髪を引っ張りながら、陸はまた桃色の絨毯を歩き始めた。
「いたたっ!ちょっと、離してよ!」
「いってぇ!お前こそピアス引っ張るんじゃねぇ!」
「こんなにいっぱいつけてたら、引っ張ってくださいって言ってるようなもんよ。」
この二人の口喧嘩は毎度のこと。
当然、付き合っているわけではない。
いつも笑顔の千夜と、いつも不機嫌そうな陸は、血の繋がらない家族である。