x.stage
Deux
温かな森をかれこれ30分ほど歩いている。
時折声はしても、動物の姿は全く無い。
道と新緑が続く森を、男女が無言で歩いている。
2人の間の距離は前後約2m。
縮まることは決してない。
不機嫌そうな男は、ポケットに手をつっこんだままひたすら歩く。
少女は置いていかれないよう懸命に背中を追いかける。
先に口を開いたのは、立ち止まった男だった。
「着いた。」
「え、街に?」
緋那の後ろから、千夜は前方を眺める。
しかし、そこには変わらず道と新緑が続いている。
「街…無いよ?」
「ある。」
そう言って真っ直ぐに歩き出した彼の背中が、急に歪んで見えた。
呆気に取られる暇もなく、前から手が伸びてきて、千夜の腕が強く引かれた。
短く悲鳴をあげる前に、彼女は目の前の光景に声を忘れた。
さっきまでの森は消え去り、見渡す限り木造の家。
平屋の中には商店も見える。
呼び込みの大きな声や女性の笑い声が溢れる街。
江戸時代の日本を思い起こすような風景だった。