x.stage
* * *
暗く寝静まる森。
ロッジから漏れる明かりで、小さな影が1つできている。
森の結界から出た2人の人物を、じっと見つめている漆黒の瞳。
「ほぅ…あやつか…。」
男は窓枠に座り距離をとっているが、女はロッジの主たちと親しそうに話している。
ふたつに結んだ黒髪が楽しそうに揺れ、一瞬だけ窓の方を振り返った。
窓枠に座る彼を見たのだと分かってはいたが、その顔を見た瞬間、影は反射的に声を出しかけた。
咄嗟に口を塞いだのは、影の腕の中にいる兎の人形。
小さな声でお礼を言い、背を向ける女の顔をもう一度思い浮かべた。
目、鼻、口、輪郭、思い返してみれば誰と似ているわけではない。
ならなぜ反射的に声が出かけたのか…。
「……気のせいにゃ。まぁ…確かめる必要はあるにゃ。」
人形を細い腕で抱き締め、影はまた森の中へと消えていった。