傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
「分かんないの・・・何も」
「え?」
「記憶障害」
テレビでしか聞いた事の無い単語に、俺は再び「え?」と言った。
「覚えてないの、親とか家族とか、自分の事も」
「え・・・じゃあ、あの義父って」
「肩書きだよ。・・・あたしにはお金も住む家も、何も無いから、だから・・・・あの人から、買ってるの、あたしと言う存在を。」
自分を買ってる。
そう言ったユイは、今どんな顔をしているんだろうか。
想像したくも無かった。
感情も全て捨ててあんな男の言いなりになって・・・今まで生きて来たユイが。
どれだけのモノを抱えているのか。
「でもね、変なんだ」
「・・・?」
ユイは小さくそう言って、赤い傘を握り締める。