傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-






「あたしこの傘だけ持ってたの。ずっと、ずっと。最初訳分かんなかったけど・・・これだけがあたしを知ってる気がしてさ。」


赤い傘。

初めて会った日も持っていた、あの赤い傘。





「お前が、雨の日にあの場所から逃げるのは?」

ずっと知りたかった。



雨の理由。


雨から逃げた理由。




「・・・あの人が工事現場で働いてて、雨が降ると家に帰って来るから。それが嫌だったんだよ。」


「そっか・・・」



「それと」

「?」










「あたしがココロを無くした日が、雨だったから」


「・・・・ユイ」


「そのユイってのも、偽名なんだけどね」



ユイは俺を振り返って、苦しそうに笑った。



俺は、それ以上はなにも言えなかった。









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