傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
「有難うございましたー」
カウンターの食器を下げながら、会計を済ませた客にそう言う。
「どうした、奏汰。今日やけにウキウキしてんじゃねぇか?」
レジ打ちしながらマスターが言う。
「別に、何も無いっすよ」
「あっそう?」
マスターがニヤニヤと俺を見る。
俺は、何も無いですって、と念を押してホールに出る。
まぁ、本当は窓の外が気になって仕方が無いのだけれど。
雨は降ったままだった。
無意識に窓の外ばかりちらちら見る俺に気付いたのか、マスターがゴミ袋を持って俺をカウンターに呼ぶ。
「これ、外出しといて」
「え、でもまだ店終わって・・・」
「大丈夫大丈夫、あの人達で最後のお客さんだから」
マスターはそう言って、小さくウィンクをした。
俺は持って来て置いたあの赤い傘を取って、店を出た。