傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
「なんて言うの?」
「は?」
突然の質問に、俺は首を傾げた。
「名前」
彼女はそう言って俺を見る。
「ああ、名前。奏汰。萩中 奏汰。」
俺がそう言うと、彼女は「ふーん」と興味無さそうな顔をしてカップを揺らす。
「あんたは?名前」
「・・・知らない」
「は?」
眉をひそめた俺に、彼女はもう一度「知らないって」と言った。
自分の名前を知らない奴なんてせいぜい赤ん坊ぐらいだ。
すると彼女は、
「ユイ」
とそれだけ言った。
「だから、ユイだって、名前」
「あんじゃねぇか、名前」
笑混じりに言ったつもりだったのに、ユイの顔が曇ったから。
それ以上は触れちゃいけない様な気がした。
ユイはすぐにまた笑った。