傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
何時ユイが店に来るか分からなかったから、店が閉まる一時間前に家を出た。
バスを降りて店までの道を歩く俺は、心無しか足取りが軽かった。
この一週間の俺は、大分変だ。
店に着いてフロントの扉を開けると、カウンターに見覚えのある小さな後ろ姿があった。
マスターが俺に気付いてその後ろ姿に微笑む。
「遅かったね」
昨日と同じ笑顔で、ユイは俺を振り返った。
「・・・ああ」
「マスターさんに聞いたら、今日バイト無いって言ってた」
俺は「まぁな」と言いながらユイの隣に腰掛ける
。
「あたしに会いに来た?」
「・・・大体そんなところだ」
俺が素っ気なく言うと、ユイは隣でクスクス笑ってた。
何が可笑しいんだ。
「はい、ホットミルクお待たせ。奏汰は、何か飲むか?」
ユイに昨日と同じホットミルクを差し出して、マスターが俺を見る。
「あ・・・じゃあ俺コーヒーで」
「ブラックな?」
俺が付け足そうとした言葉を、読み取るかの様にマスターが言ったから、俺は黙って「はい」と頷いた。