傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
エプロンをきゅっと締めて控え室のロッカーを閉めると、
ポロロン、とグランドピアノの音がした。
不思議に思いながら店の方へ行くと、磨きかけのカップを片手にうっとりとホールに視線をやるマスターが居た。
「どうしたんですか?」
俺がそう聞くと、マスターは口唇に人差し指をあててシッと言うと、そのままホールの奥を指差した。
ー♪ ーー♪
何処かで聞いたことのあるメロディ。
細くしなやかな指先で、白黒の鍵盤を操ってそんな音楽を奏でて居たのは、
紛れもなくユイだった。
店に居たOLやサラリーマン達も、なんだなんだとユイに目をやる。
ユイは気付いてるのか気付いていないのか、ただ黙って演奏を続けて居た。
俺はただ単純に、そんなユイが綺麗だと思った。