傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
曲が終わり、パチパチとあちこちから小さな拍手が聞こえる中、ユイは照れたように頬をピンクに染めて、俺の所に来た。
黙って目をパチパチしてる俺に、ユイが首を傾げる。
「奏?」
「あ、いや・・・驚いた、凄いな、ユイ、ピアノ弾けたのか」
「うん、分かんないけど、弾いてたら思い出した」
分からないけど、って。
突っ込みそうになったけど、俺は小さく微笑んでユイの頭を撫でた。
「でも本当、良かったよユイちゃん」
何時の間にかカウンターに戻ったマスターが、肘をついてそう言う。
「ありがとうマスターさん」
「良かったらまた演奏してよ、BGMとして!どうせ奏汰、仕事してて相手出来ないでしょ?」
「え?」
「ちょ、マスター!」
慌てて止めたけど、マスターが良いじゃん良いじゃんと言って、結果押されてユイは「うん」と言ってしまった。
「大丈夫か?ユイ」
「良いよ、別に。バイト代くれるって言ってたし。」
「そういう問題じゃないだろ・・・」
平然とした顔で「なに?」と言うユイに、俺は呆れたように苦笑して仕事に戻った。
まぁ、ユイが退屈しないなら良いのかもしれない。
俺も目が届く場所だし。