傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
「女の子じゃないよ、あたし」
暫くして放たれたその言葉に、一瞬だけ戸惑った。
「じゃあ、女装趣味か何かか」
俺がそう言うと、彼女は小さく笑った。
酷く、悲しい目で。
「雨の中突っ立ってたら風邪引くぞ」
「傘、差してるし」
そう言う問題じゃ無いだろ。
言い掛けて、止めた。
「靴はどうした?」
何時の間にか俺は、びしょ濡れになっている事も忘れて彼女に言った。
「失くした」
「・・・・」
失くす訳ないだろう、普通。
それ以上何も言うことができなくて、俺はただ黙って彼女の横顔を見ていた。