傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
ユイは、俺のバイトに合わせて店に来るようになった。
その殆どは雨の日だったけれど。
それでも何も言わずに、仕事が終わればあのコンビニまで送って別れた。
ユイは以前よりも、雨にはこだわらなくなったかもしれない。
とは言え、俺のバイトが無くても雨の日は喫茶店に出入りして居た様だが。
「奏、帰る」
「おう、今着替えて来る」
あの日の事を、ユイは話そうとはしなかった。俺も聞かなかった。
でも、それで良いのかもしれない。
ユイがこうしてずっと側に居るのだから。
「マスターがね、」
「ん?」
帰り道、両腕を後ろで組みながらユイは俺の前を歩く。
「今度ジャズバンドとコラボしないか、って」
「へえ、良いじゃん」
「うん」
そう言ったユイは少しだけ嬉しそうだった。
本当に、音楽が好きなんだろうな。
「俺がバイトの日?」
「分からない」
「まあ、見に行くよ」
俺が言うとユイは小さくうんと頷いた。
「じゃあ、また」
「ん」
ユイに小さく手を振って、反対方向へ足を進めた。