傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-





ユイは、俺のバイトに合わせて店に来るようになった。


その殆どは雨の日だったけれど。



それでも何も言わずに、仕事が終わればあのコンビニまで送って別れた。




ユイは以前よりも、雨にはこだわらなくなったかもしれない。

とは言え、俺のバイトが無くても雨の日は喫茶店に出入りして居た様だが。



「奏、帰る」


「おう、今着替えて来る」


あの日の事を、ユイは話そうとはしなかった。俺も聞かなかった。



でも、それで良いのかもしれない。


ユイがこうしてずっと側に居るのだから。




「マスターがね、」

「ん?」


帰り道、両腕を後ろで組みながらユイは俺の前を歩く。


「今度ジャズバンドとコラボしないか、って」


「へえ、良いじゃん」


「うん」


そう言ったユイは少しだけ嬉しそうだった。


本当に、音楽が好きなんだろうな。




「俺がバイトの日?」


「分からない」

「まあ、見に行くよ」


俺が言うとユイは小さくうんと頷いた。





「じゃあ、また」


「ん」





ユイに小さく手を振って、反対方向へ足を進めた。










< 71 / 133 >

この作品をシェア

pagetop