傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
「何もって、何を?」
俺は逃げるように視線を戻して、再び食器を洗い出した。
「奏は、優し過ぎるよ」
「・・・・」
俺の動きがピタリと止まる。
「奏は、優し過ぎる・・・」
枯れそうな声でそう言ったユイに、ぎゅっと目をつぶる。
「俺は、お前に離れて欲しくないだけだよ」
小さく、小さく呟いた。
そっと振り返ると、ユイは俯いていた。
前までは目立つことの無かった首元の痣が、やけにくっきりと俺の目に映った。
「話せないならそれで良い。俺は聞かないから。ただ此処で、俺の側に居てくれよ。」
ユイはずっと黙ってた。
分かってた、応えられ無いことぐらい。
でも俺は、逃げたんだ。