傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
「家、どこだ?送る」
ここまで来ておいて、じゃあさようなら、なんて訳には行かない。
俺は彼女にそう聞いた。
だけど返って来た言葉は、
「無い」
の二文字。
「おいおい、勘弁してくれ」
俺がそう言うと、彼女は暫く俯いてから、俺を振り返った。
それから俺の側まで来て、自分の赤い傘を渡して来た。
「これ使って」
それだけ言って、くるりと後ろを向く。
「あ、おい!」
咄嗟に出た言葉。
「俺が使ってどうするんだよ、あんたが濡れる」
そう言って傘を返そうとしたが、
ー俺の目に写ったのは、道路に飛び出す白い背中だった。