傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-






「家、どこだ?送る」



ここまで来ておいて、じゃあさようなら、なんて訳には行かない。


俺は彼女にそう聞いた。





だけど返って来た言葉は、




「無い」




の二文字。





「おいおい、勘弁してくれ」


俺がそう言うと、彼女は暫く俯いてから、俺を振り返った。



それから俺の側まで来て、自分の赤い傘を渡して来た。




「これ使って」

それだけ言って、くるりと後ろを向く。



「あ、おい!」



咄嗟に出た言葉。




「俺が使ってどうするんだよ、あんたが濡れる」


そう言って傘を返そうとしたが、



ー俺の目に写ったのは、道路に飛び出す白い背中だった。







< 8 / 133 >

この作品をシェア

pagetop