傘恋愛 -カ サ レ ン ア イ-
カランコロンー
まだ準備中の札がかかった喫茶店の扉をそっと開けて、中に入る。
他に行く場所なんて無いから。
「お、ユイちゃん」
「まだ準備中って・・・」
「ユイちゃんなら問題無いよ。さ、座って、ホットミルクで良い?」
優しいひと。
こんな人に愛されてたら、あたしはきっともっと、幸せだっただろう。
「奏汰、今日バイト夜からだよ」
「知らなかった」
あたしが奏に会いに来たと思ったのか、マスターさんは少しだけ驚いた様な顔をしていた。
「今日も、雨、だね」
「・・・・うん」
「はい、ホットミルクお待たせ」
マスターさんの笑顔や、瞳は、心を暖かくする。
女癖悪いけど、そんなマスターさんだから奏は気を許して此処に留まって居るんだと思う。
自分、を持っている分、少しだけ、羨ましい。
「マスターさん」
「マスターで良いって言ったじゃないか!」
「ごめんなさい。・・・マスターは、いつから奏と知り合い?」
あたしが聞くと、マスターはカップを磨きながらうーんと考え出した。
「ほんとガキの時からだよ、奏汰の親父さんがよくうちでライブやってたんだよ」
「そうなの?」
あたしが身を乗り出すと、マスターは嬉しそうに奏の話をし始めた。