キス、しちまいました
この女子はコンビニに寄る時はいつも、何か飲み物を買っていくのを俺は知っている。
よく、見ているから。

最近のお好みは午後ティーらしく、今は赤の紅茶か黄の紅茶か、手にとって悩んでいる。

時折お菓子も買っているのも見た。

…この女の子の笑った顔は1回見たことがある。

菓子の袋を片手に、棚にある菓子を見比べていた。
その時、何かを思い出したのか優しげに笑った。
思い出し笑いなのか、何故微笑んだのかは知らない。
…けど、それを盗み見ていた俺の脳裏には、未だにあの笑った顔が残っている。

「…佐倉」
不意に、篤に呼ばれた。
篤は仲の良い間柄でも、大概人を名字で呼ぶ。
「ん、おぅ?」
変に思われないように、間を開けずに返事をする。

「俺買うもん決めたけど。佐倉、まだ決めてないの?」
目が覚めてきたみたいだ。滑舌が戻ってきてる。

「あぁ、俺あずきバーにするわ」
とは言っても、本当は春が決める前から決めていた。
悩んでいるふりをしていただけ。

――あの子に、会う為に。


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