キス、しちまいました
菓子を選別している振りをして、隣の少女の顔を盗み見る。


いつか見た笑った顔ではなかったが、柔らかい表情をしていた。
口角は上がっていないが頬と目尻は優しく緩んでいる。

…何を考えているのだろう。

俺はこの子のことを何も知らない。
名前も年も、何も知らないし話したこともない。

知っているのは学校と、好みのジュースと、いつか見た笑顔と、「あ、袋いらないです」と言った声だけ。

それ以上は何も知らない。

この子はきっとそれ以上に、俺のことを知らないだろう。


柔らかな髪。



触れたいと思った。


彼女の柔らかな髪の中に指を通らせる。

柔らかな絹のような髪。スルスルと優しく俺の指を撫でていく。


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