蜂蜜れもん
「莉緒!」
ドアを開けて教室に入ろうしたら名前を呼んでぎゅーっと強く抱きしめに来た愛海。ふわりとお花の匂いが香る。それが愛海から香るものだと解ると莉緒もぎゅーっと抱き着いて話すことにした。
「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫ー」
「あれ、走って来たの?」
少しの息切れと汗に今気付いたのか愛海が問う。その質問に曖昧に返す。
バンっ――
真横の壁に指輪をしている手が見える。
「一緒に行こうと思ったのに逃げ出したんだぜ? 酷いよなー」
後ろから声がしたから抱き着いたままクルっと器用に廊下側と教室側を入れ替えた。先ほどまで莉緒の後ろ姿が見えていたのだが、今は愛海の後ろ姿が見えて愛海の肩に顔を埋めるながら廉の方をビクビクと窺う莉緒。
そんな姿を見てしまえば面白くてつい意地悪したくなるわけで、そっと顔の近くまで手を伸ばす。
「嘘、廉くん意地悪した!」
「おい、何言って」
愛海が顔だけ向けると「げっ、」と発する廉。口元を引きつらせて顔に伸ばしていた手を急いで引っ込ませると廉の頬に嫌な冷や汗がツゥっと伝う。
タイミングが良いのか悪いのかチャイムが鳴って「んじゃ!」逃げるように自分のクラスに戻っていった。何で「げっ、」って言ったのか気になりはしたがあえて聞かないことにする。
「みーちゃん、今日も教科書見せてくれると助かるんだけどな」
えへへと頬をかいて苦笑いしながら頼んだ。しかし答えは「NO」次の日にして嫌われたかと思ったがそういうことではないらしい。莉緒の隣の席の人が今日は来ているから愛海が隣に座ることは出来ない。
隣の人がいるなら仕方ないと言い聞かせて自分の席へと向かうと校門付近で見かけた茶髪の子が座っていた。サラサラとなびく髪にチラチラ見え隠れするエメラルドのピアスに白のイヤホン。廉同様校則なんて守ってる気配のない服装。
「おはよう」
トントンと優しく肩を叩いて愛海が話しかけた。
「昨日転入してきた西園莉緒ちゃん」
「あー、そ……あぁ゛!?」
興味無さそうに返事をしたからそのまま席に着こうとしたら急に体ごと莉緒の方に向けた。
それに驚いて小さく悲鳴を上げる莉緒。目をパチパチさせる男子生徒はクスクス笑い始めて笑い声は次第に大きくなる。
「西園莉緒か、久しぶりだなぁ?」