蜂蜜れもん

「知り合い? ……莉緒?」
「や、やが……、楼」

下の名前を呼ばれた楼は「覚えてたのか」そう言って嬉しそうな表情をした。突っ立ったままフリーズしている莉緒に話しかける愛海だが何の反応もしない。ガラガラッとスライドするドアを開けて入ってくるのは担任の丹野。立ったままの2人を見つめて「何してんの」と問うがそれに反応したのは愛海のみ。ベタに顔の前で手をヒラヒラさせてみるが動かない。瞬きさえしないから呼吸しているのか心配になって口元に手を近付ける。

「呼吸はちゃんとしているみたいだけど……何があったの?」
「莉緒! おい莉緒!!!!」

席に座っていた楼が立ち上がって莉緒の肩を掴んで揺さぶった。頭がカクンカクン行ったり来たりする。

――吐きそ……

「莉緒、保健室行く?」
「行く」

“保健室”の単語に反応したのかやっと反応して瞬きをした。その行動に笑いを堪えた丹野。
まさかと思い、もう一度、楼の方に目をやるとバッチリ目があってしまった。小学生の頃にもあった恐怖が再び莉緒を襲う。口元を押さえて愛海に支えられながら保健室へと向かった。

「西園さん、男の子苦手だから意地悪しちゃダメだよ?」
「は?」
「はーい、みんな座って座って。HR始めるよ」

“男の子苦手だから”の丹野の一言に驚いた楼。
小学生の頃は普通に男の子と遊んでいた。もちろん意地悪する前までは楼とも遊んでいたから驚くのは当たり前だ。どうして男の子が苦手になったのか楼は知らない。自分の所為だということにも気付かなかった。

「あいつ、昔より可愛くなってやがった……」

誰にも気づかれないようにポツリ呟く。
HRにも関わらず机に伏せて校庭を眺める。
てっきり中学校も同じだと思っていたのに女子中を受験していた。受験しても共学なら一緒の学校に行くため勉強も出来たが流石に女子中は無理だ。それから楼は莉緒に会っていなければ見かけることもなくなった。思いを寄せていた楼にとってはショックな出来事だった。
家族、友達、先生に「好きだから」と言われたのは間違っていなかった。しかし思いを寄せられていたなんて莉緒は知らない。
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