蜂蜜れもん
* * *
廊下を歩いていると、どの教室でもHRをやっているから声が聞こえてくる。場所を覚えないといけないと分かっていても話し合いに耳を傾けてしまう。テスト勉強の話しや文化祭の出し物の話し合い。女子中にいた莉緒からして学校で男の人の声が聞こえるのに違和感があるから「何かくすぐったい」と心の中で思った。
数回階段を下りて左の一番端に保健室がある。声をかけてから入ると独特の匂いが鼻を刺激する。
「先生、いないみたいね」
「勝手にベッド借りていいかな」
「じゃあ、1時間目終わったら迎えに来るね」
「ありがと」
ひらひらと手を振って見送った。
保健の先生は会ったことがない。男性か女性かも聞いていない。男性だったらどうしようと心配になったが睡魔に襲われる。
――うぅ……睡魔が
――あれだけ寝たのに
ふかふかのお布団に静かな空間、にほどよい温度なら、寝たくなくても睡魔が襲ってくれば勝てるわけがない。数分すればスー..スー..と規則正しい寝息が保健室に静かに響く。
どこに行っていたのか、戻って来た保健医は1つのカーテンが閉められているベッドに向かった。もちろん誰がいるのか確認するため。保健ノートには名前が書いていなかった。もしサボりだとしたら教室に返さないといけない。
「……?」
カーテンを開けてみたものの毛布を被っていて顔の確認が出来ない。溜息吐いて「困ったなぁ」なんてぼやく。一応病人だったら起こしてはまずい。寝ている子が起きないようにそっと毛布を剥いだ。
「転入生、かな」
「んぅ……む」
「まぁ、いっか」
毛布を肩まで下ろしてカーテンを閉めた。なるべく音を立てないようにイスに座って、特にやることがあるわけではないが手紙の作成をするためパソコンを立ち上げる。
静かだった保健室にはカタカタとキーボードを打つ音と、体育の授業で校庭を使用しているクラスの声で少し煩くなった。
それでも莉緒は未だ夢の中。