蜂蜜れもん

「育(いく)いるか?」

ガラガラっ、バンっと大きな音を立てて入って来たのは今頃授業を受けているはずの楼。

「学校では八神先生って言ってるでしょ。それと保健室では静かに」
「八神“先生”なんて気持ち悪ィから無理だ。それとまだ保健室入ってねぇからセーフだ」

八神育。八神楼の兄。どこが似ているかなんて聞かれれば目元と性格だろう。
育に注意されたにも拘らず屁理屈を言って近くにあったイスを引っ張ると、背もたれに肘をついて座った。かけていた眼鏡を外して「授業はサボリか?」と問う育に対して「あのベッドに女寝てんだろ」と見事にスルー。
楼は女好きでも有名だった。色んな女子生徒と付き合ってはヤって別れての繰り返し。だからベッドで寝ている子も起きたらヤるのかと勘違いして「止めろよ?」とつい言ってしまう。その発言にふと笑って「違ぇーよ」と返す。

「西園莉緒だよ」
「?」

名前を言われただけでは誰だか分からない。だから「昔付き合っていた子?」なんて心の中で思う育だがそれはないなと自己解決。昔の女の名前なんて覚えているわけがない。すると「今の女か?」とも思ったが見たことのない顔。育は楼の目の前で百面相している。ケラケラ笑ってからかうように楼は言う。

「覚えてねぇのかよ」
「楼の女なんて一々覚えてられねぇよ」
「俺の女じゃねぇよ。小学生の頃俺が好いてた女」

小学生の頃の友達を頭をフル回転させてやっと思い出す。
「美人になったね」なんて楼と似たようなことを言う。どんな子だったか思い出せば早くて授業中だということを忘れて昔の話をする2人。終わる頃には授業も終盤で「片付け始めとけよー」の体育担当の声で現実に引き戻される。
イスを片付ける楼に育は「何しに来たの」と最後に問う。笑いながら「話に来ただけ」それだけ言って戻ってしまった。

「本当は莉緒ちゃんの様子見に来たくせに」
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