蜂蜜れもん

グスグスと鼻を鳴らして鞄を握り締め俯いて教室に入った。さっきまでの煩さは何だったのか奇妙なほどの沈黙。
それでも痛いほど見られているのは気配で理解する。本気で泣き始める前に担任がカツカツと名前を書いていく。
何を言ったらいいのか分からず立ち尽くしていると隣から小声で「名前と一言」と言ってくれた。

「西園……莉緒です。よろしく願いします!!!!」

お辞儀をして俯きっぱなしだった顔を上げた。短い自己紹介にも関わらず少し息が上がっている自分に驚く。

――か、帰りたい

「西園さんは後ろの席で良い?」
「あ、はい」

指されたのは校庭側の一番後ろ。視線から逃れたくて速足で後ろに行くとちょうどチャイムが鳴る。丹野は「仲良くしろよー」なんてのんきなことを言いながら教室を出ていく。
隣は休みなのか誰も座っていなかった。男女が隣ということは莉緒の隣も男子生徒。これからやっていけるのか少し不安になっていると前の席の女子生徒に話しかけられた。

「西園さん、モテるでしょ?」
「っ! ないないないないない」

一瞬驚いた表情をしたが真顔で否定するから笑いながら机を叩く。

「私、愛海(あみ)山本愛海。よろしくね?」
「西園莉緒です。みーちゃんって呼んでいい?」
「猫の呼び名みたいね。私も莉緒って呼んでいい?」
「うん!」

黒髪のロングで白い肌に猫目。美人の類に入るだろうと思った。
初めて出来た友達に喜んでいると男子生徒が莉緒の隣の席に座り、アドレスを聞こうと顔を近付ける。

ガタンっ!!!!――

立ち上がろうとしたのに立ち上がれなくてイスごと後ろに引っくり返った。

「! 莉緒、大丈夫!?」
「大丈夫! 吃驚しただけだから!」

お尻以外どこも打たなかったが、着いた手の平が少し赤くなっていた。

「悪ィ、大丈夫か!?」
「っ!!!!」

パシンッ――

差し伸べられた手を叩いてしまった……
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