指先の恋
「嫌よ、普通に戻して」
彼女はそう言いながら、バックスペースキーを連打する。
「……っ!?」
あぁ、せっかく作り上げた文章が水の泡だ。
「だいたいさ。恋愛もろくにしたことないくせに、なんで恋愛小説書くかなぁ」
雅の言葉が、ストレートに突き刺さる。
「あのね雅。僕にとって物語の中だけは自由なんだよ。大冒険だって、大恋愛だってできるんだ」
「だからって、私をケンタの妄想に巻き込まないで」
僕の熱い想いを『妄想』の二文字に置き換えた彼女。
なかなか良い性格をしていると思う。
褒めたわけじゃない。
「ケンタの妄想はすごいよね」
綺麗な顔には似合わない、毒の含まれたセリフ。
あと、誤解されては困る。
僕が雅を巻き込んだわけじゃない。
雅が勝手に出てきたんだろう?
僕の書く小説の中から。