エデン
「ねぇ、父さん‥‥」
言葉が零れる。
ホントは言うつもりなんてなかったのに、でも今言わなかったら、いつか父さんに対して不審を抱いてしまうと思ったから。
きっとカムイの言葉が後押ししたんだと思う。
自分が我慢すればいいなんて、単なる自己満足だよね。
僕は父さんが好きだから、正直な気持ちを話そうと思った。
「父さんは母さんの事忘れちゃったの?」
「アナン‥‥」
恐らく、そんな事を聞かれると思っていなかった父さんはどこか寂しげな瞳を僕に向けている。
そんな父さんの視線に少しいたたまれなかったが、自分の気持ちをしっかり伝えようと視線を絡めた。
「僕、ルリコおばさんの事好きだよ。‥‥でも、僕の母さんは一人だけだ!」
「‥‥アナン」
「父さんはもう母さんの事好きじゃないの!?」
僕が叫ぶと、それまでどこか緊張していた父さんの瞳が柔らかくなった。
「今でも愛してるよ」
言いながら僕の頬に触れた。
それは父さんがよく母さんにしていた仕種だ。
「お前の目も口もアイツにそっくりだ。忘れるわけがない」
その瞳は昔母さんに向けていた瞳と変わらない。
「じゃあ、なんで‥‥」
「ルリコも大切なんだ」
「‥‥わけわからないよ」
それ以上父さんは何も言わず、頬に触れていた手で僕の頭をポンと叩いた。