恋歌 〜secret love〜
泣いてるの、バレてないよね……?
1回も振り返らずに歩いて、玄関の前に立った。
屋根の下で雨も当たらないこの小さな空間が、さっきいた場所とは全然違う世界に思える。
思い切って振り返ると
先生はまだ、さっきと同じ場所に立っていた。
「先生、濡れちゃいますよ!」
先生に届くように、ノドを張る。
冷えた体が少しきしむような気がして、顔が歪んだ。
「奏が家に入るまで見届けるよ。
もう遅いからな……生徒がちゃんと家に帰るまで、責任持たないとマズいだろ」
少し笑いながらそう言った先生の表情は、ここからはわからない。
「あたしじゃなくて、先生が風邪引いちゃうよ……」
小さく笑ったあたしは、もう1度先生に大きく頭を下げてから、玄関のドアを開けた。
先生に早く車に戻ってほしくて、そのまま勢いよくドアを閉める。
先生との別れを実感させるみたいに
耳の表面で、ばたんっと大きな音が響いた――――