恋歌 〜secret love〜

「それは……秘密です。

でも、この歌はとても大切に作ったし、歌いました」



あたしは、そう言ってまっすぐ前を見つめた。


そうしてから、涙がすっかり乾いていて、自分が笑ってることに気付く。



「ありがとうございました。では、お戻り下さい」


「はい。ありがとうございました!」



大きくゆっくりと頭を下げて、あたしは初めにいた場所に戻った。



同じタイミングで、次の人がさっきあたしのいた場所に向かって歩き出す。



戻る瞬間


後ろを向こうとした瞬間に、少しだけ、観客席の右端を見た。



話している間は怖くて、見る勇気がなかった場所。



でも


一瞬だけではさっき気になった場所なんて見つけられなくて……



あたしは小さく、溜息を吐いた。



「どう? 推薦者らしき人、いた?」


「さすがにここからはわからなかったよ」


「そっかぁ……。やっぱり、休憩時間がチャンスだね」



隣に戻ったあたしに、さゆみちゃんが小さく言った。



ステージの上にいるからかもしれないけど、その笑顔がさっきよりも眩しい。



休憩時間か……。


本当に見つかるのかな?



そうは思うけど、やっぱり全力で探してみたい。



だって



“後悔しないように頑張れ”


って、今自分で言ったばっかりなんだもん!



大きく息を吐いてから、あたしは、ライトでいっぱいのステージでまっすぐ顔を上げた。

< 322 / 339 >

この作品をシェア

pagetop