恋歌 〜secret love〜
「失礼します」
静かに、教室の扉を開ける。
「どうぞ。座って」
そう促されて、あたしは担任と向かい合う形になった。
「押端さんは、テストの点数も内申も良いし、問題はないね。進学先はどこの高校が良いの?」
にっこりと微笑みながら担任は、あたしに視線を合わせた。
向けられた視線にイライラしながらも、それを隠して正直に答える。
「いえ。まだしっかりとは決めていません」
「そうなの?でもまぁ、将来の夢はあるでしょう?何になりたいの?」
またか……――――
その頃には、担任の上から目線にも慣れてきてた。
そうは言っても、担任が嫌な大人であることに変わりなんてない。
それでも、あたしは信じてた。
いくら嫌な大人でも、この人は教師だから。
先生は、生徒の味方なはずだって。
自己中心的な考え方だったって、今なら思う。
でも、あたしにはそんなことを考える余裕なんてなかったんだ。
担任の先生は、あたしの作曲コンクールでの話も知っていて
入賞を誉めてくれたうちの1人だった。
だから、正直に言ったの。
「将来は……音楽家になりたいんです。自分で歌を作って、歌って、それをたくさんの人に聴いてもらいたいと、思ってます」