恋歌 〜secret love〜

一瞬。

あたしは自分のしたことの何が間違っていたのか、わからなかった。



ただ、先生とあたしの間を漂う空気が重くて

冷たくなったことは、はっきりわかった。



それに、先生の目はさっきまでの上から目線じゃなくて

あたしを問題児として蔑むような……同情の視線に変わっていた。



「そう。でもね、それでは生きていけないの。
音楽家は副業にすれば良い。何か他にやりたいことがあるんでしょう?」



この時に思った。




間違いだったのはあたしの言動じゃなくて

あたし自身なんだ、って。




あたしには、音楽以外にやりたいことなんてひとつもなかった。


でも、そんな自分は異常だったんだって

間違いなんだって、この時に初めて気づいた。



同時に

ここで名誉を挽回しないと、この先生の中であたしは一生、問題児として扱われるんだって、焦りも感じた。



「そうですね。やりたいことはたくさんあるので、自分に合う、普通の仕事をじっくり考えてみます。

進路志望調査用紙はよく検討してから提出しますから」



「そうね、それが良いわ。じっくり考えなさい」




次の日の朝一番に、あたしは進路志望調査用紙を提出した。
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