初恋の行方〜謎の転校生〜
「あのね、私、初めてなの。だから、優しくして?」


私は手で顔を覆ったままそう言った。柏木君に、それだけは知っておいてほしかったから。


ところが、柏木君の返事はなかった。それどころか、彼の気配さえ感じられなかった。


「柏木君……?」


そっと顔から手を退けて目を開けたけど、柏木君はいなかった。


あれ?

と思って首を回したら、少し離れた所に立ち、耳に受話器を当てた柏木君がいた。

ワイシャツはまだ脱いでいなかった。


「律子さん? 悪いんだけど、湿布薬を持って来てくれない?
え? 打ち身とか捻挫に効くヤツ。うん、よろしくね?」


柏木君は受話器を置くと、私を向いて言った。


「おい。人が来るから布団被った方がいいぞ」と。


柏木君は私の体に出来た傷を見ていただけ、という事に漸く私は気がついた。


私は恥ずかしくて、布団の下に体を入れると、顔までそれを引き上げた。


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