One STEP
いつの間にか近づいてきていたみたい。
あたしはそれに気づかなかった。
「アンタに演劇なんて無理だわ」
それは魔女役だった先輩だった。
ゾクっとした。
まるで、あのとき感じたような感覚。
とても冷たい冷気をまとった言葉。
氷を叩き付けられたような衝撃を受けた。
透き通るような茶色い髪が揺れる。
藤田先輩を退かしあたしに近寄って来た先輩を、恐い、と思った。
殴られるとか罵倒されるとか、そういう類の恐いじゃない。
分からないけれど足が震える。
あたしは一歩後ずってしまった。
体が勝手にそう動いた。