One STEP
「ゆっくり深呼吸して」
小さく誰にも気づかれないようにあたしの耳元でそう囁く。
くすぐったくて、小さく目を瞑った。
あぁ、やっぱり先輩は臆病なあたしに気づいてくれていたんだ。
トクントクンと小さく音をたてる心臓。
それが今までに感じたことがないくらい心地よくて、あたしは深呼吸を繰りかえしながら引かれるがままに先輩の後ろについて行った。
「ここら辺かな~」
そう言った場所は夏沙先輩よりも少し前の方だった。
やはりあんなに遠かったのは柳沢先輩のせいだったみたい。
未だ深呼吸を繰り返しながら俯いているあたしに、先輩は優しく囁く。
「頑張ったね」
「…え?」
先輩はあたしの心が読めるんだろうかと思った。