One STEP
あたしは迷った。
もちろん見たいと思う。
けどそれを見て、あたしの心が動くわけがない。
中学のとき、そうだった。
演劇をすると聞いたから見に行った。
すごい面白いと思った。
カッコいいなと思った。
けど、それをやりたいとは思わなかった。
あたしにはあんな勇気はない。
みんなに楽しんでもらうような、あんな素晴らしいことは絶対できないと、同時に思ったんだ。
「ね?」と、少し不安そうな顔をする先輩。
そんなにあたしの声がいいの?
そんなに演劇部に入ってほしいの?
そこまで思う、理由はなんで…?
断れなかった。
こんな先輩の顔を見て、断れるわけなかった。
だから返事は、
「…分かりました」
こう、言うしかなかった。