One STEP
「大袈裟に転んでみたんですけど、あんな感じで大丈夫ですか?」
「丁度いいと思う。…でもあれ、あたしが思いっきり押してるみたいで嫌な気分になるわ」
…そうですよね。
「先輩は毎回嫌な役なんですか?」
「まあ…そんなとこ」
確かに美空先輩がリノアの役とかやっても面白くないってか、あってないよね。
ちょっと酷いことを思ってみる。
でもあたしの脳内には、未だに魔女役の先輩がこびり付いている。
あの背筋が凍るような、あの冷たい目。
今回もそうなのかな?
あたしあんな目で見られたら硬直しちゃう気がするんだけど…
そういう面で今からちょっと不安だったりする。
「前までのかすみんはどこ行ったー?って感じだねっ♪よぉーっし!夏沙も頑張っちゃうよぉ~」
階段を使わずに、ステージをよじ登ろうとする夏沙先輩の瞳はキラキラと光で溢れていた。
これはいつもの夏沙先輩じゃないことをすぐ理解した。